執筆者: クレシア編集部

つながる取り組み

サステナブル商品が「選ばれる」ためのマーケティング新常識——電通・オイシックス・クレシアの実践に学ぶ

# CSV # サステナビリティ # 売り場づくり # リサイクル # 共創 # イベント
駒澤大学の菅野佐織教授、電通の竹嶋理恵氏、オイシックス・ラ・大地の東海林園子氏、日本製紙クレシアの髙津尚子氏がステージ上で並んでトークセッションを行っている様子

「社会や環境に良いものを作ったのに、実際の売場ではなかなか手に取ってもらえない…」サステナブルな商品開発やマーケティングに携わる方の中で、今こうした悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。経営・戦略コンサル会社、ボストン・コンサルティング・グループが行った生活者意識調査によると、環境配慮に関して日本の生活者の50%は「意識はあるが行動を変えていない」という結果が出ています。理解は進んでいるにも関わらず、サステナブルな消費に繋がらないのはなぜなのでしょう?

この記事では、駒澤大学の菅野佐織教授をファシリテーターに迎え、株式会社電通(電通)、オイシックス株式会社(オイシックス)、クレシア、の3社が登壇した「第10回サステナブル・ブランド国際会議2026(2026年2月開催)」のセッション内容をもとに、生活者に選ばれるサステナブルな商品が持つ「共通点」から導き出した実践的な解決策を紹介し、選ばれるサービス・企業となるためのヒントに迫ります。

【登壇者】
・竹嶋理恵氏
株式会社電通 サステナビリティコンサルティング室 エグゼクティブ・プラニング・ディレクター
・東海林園子氏
オイシックス株式会社 経営企画本部 グリーン戦略室 室長
・髙津尚子氏
日本製紙クレシア株式会社 常務取締役 マーケティング総合企画本部 本部長

【ファシリテーター】
菅野佐織氏
駒澤大学 経営学部 教授

目次

なぜサステナブル商品は「選ばれない」のか?生活者の本音から見えるマーケティング課題

生活者のリアルな本音を紐解いていくと、「生活者の意識と行動の間にあるギャップ」「サステナブル」を選ばない理由から見える、マーケティング課題」といった、企業が向き合うべき課題が見えてきます。

生活者の意識と行動の間にあるギャップ

駒沢大学の菅野佐織教授によると、日本の生活者には「環境への意識はあるものの行動を変えてはいない」「環境配慮商品の購入意向があるが、実際に買っていない」という傾向があり、意識と行動との間にギャップが存在するのだそうです。一方、積極的に行動を変えようとしている人々は、その理由として近年の猛暑に代表される気候変動などを挙げており、直接的な影響・変化の実感がきっかけになっていることも同調査でわかっています。

BCG調査グラフ:地球温暖化や気候変動問題への認知・興味・行動変容に大きな変化が見られない日本の消費者の現状を示すデータ

出典:ボストン・コンサルティング・グループ「サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果」

購入をためらわせる「情報・価格・手間」の3つの壁

多くの人が、環境負荷が少ない商品を選ぶことを重要だと考えている。しかし、実際にそのような商品を選んではいない。このような意識と行動の乖離の理由として、

同調査では「どれが環境負荷の少ない商品なのかわからない(情報不足)」「環境負荷の少ない商品は価格が高いと感じる(価格)」「どれが環境負荷の少ない商品か調べるのが面倒・手に入りにくい(手間・アクセシビリティ)」という回答が上位を占める結果が出ています。これを元に菅野教授は「情報不足」「価格」「手間・アクセシビリティ」という3つの理由は、いずれもマーケティングの課題であると指摘し、行動に移せない生活者をそっと後押しする視点が必要だと話します。

BCG調査グラフ:環境負荷の少ない商品の購入意向があるにもかかわらず、購入していない理由は環境負荷に関する情報の不足が大きい日本の消費者の現状を示すデータ

出典:ボストン・コンサルティング・グループ「サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果」

成功事例に学ぶ「選ばれるサステナブル」のポイント

そんな中、サステナブル商品をしっかり売上に繋げている企業として、オイシックス、クレシアの2社が提示した生活者を後押しするためのポイントを整理してみましょう。

オイシックス株式会社 経営企画本部 グリーン戦略室 室長 東海林園子氏がステージ上で「価格の壁「1.3倍の法則」」について話す様子
オイシックス株式会社 経営企画本部 グリーン戦略室 室長 東海林園子氏

価格の壁「1.3倍の法則」:オイシックスが導き出した指標

規格外食材、食材加工時に出る未利用部分などをアップサイクル商品として多数企画販売してきたオイシックス。2021年以降、130品以上のアップサイクル商品を販売する中で、生活者が購入に踏み切れる価格ラインは一般的な価格の「1.3倍以下」が目安になることが見えてきたと言います。

例えばポテトチップスに代表されるようなスナック類は一般的に100円台前半で販売される商品が多くなっています。これに対しオイシックスでは未利用食材のチップスを当初300円台後半の価格で販売しており、継続展開が難しかったのだそう。一方、その後改良を重ね150円前後まで価格を抑えた同様シリーズの商品は購入されやすく、継続的に展開できているのだと言います。

贈答品など非日常感が求められる商品の場合、思い切った高価格設定で成功している事例もあるようですが、日常的に自家消費する商品を継続的に手に取ってもらうためには、一般的の価格の1.3倍以下に収めることがポイントになりそうです。

機能価値を主役にする:スコッティ長持ち&コンパクトの戦略

一方クレシアの取り組みからは、生活者のベネフィットをしっかり創って打ち出すことの必要性が見えます。クレシアの象徴的なサステナブル商品であるスコッティのトイレットロールは、1ロールで3ロール分のトイレットロール、1箱250組で大容量ながらコンパクトなティシュー。

プラスチックなどの副資材削減や、高い物流効率がもたらすCO₂排出の削減、労働負荷の削減など、この商品のサステナブル要素は多数ありますが、生活者にとっての一番のメリットである「コンパクトで保管時に省スペース」「買い物や交換回数が少なくて済む」という部分を明確に訴求していることが、選ばれる要素になっています。

ワクワクと面白さの付加:「おたすけOisix」とアップサイクルの演出

生活者が選びたくなるポイントとしてもう一つ重要なのは、心が動くコミュニケーション。オイシックスでは、冷凍用ブロッコリー生産時に未利用部分となる芯、通常利用されにくい白エビの頭部・殻などをアップサイクルしたチップスも、環境への貢献思考以上に「他では出会えない面白い商品」への興味が選ばれる理由になっているのだそうです。また天候影響から変形や豊作状態が発生し、規格外や余剰となる生産物は「おたすけOisix」というネーミングで展開。生産者からのアラートを受け、購入したい生活者が手を挙げるユニークな仕組みを作っています。

いずれも廃棄される食材に価値を見出し、他にはない魅力として伝えることで、生活者がワクワクしながら自然に商品を選択できる仕組みです。

生活者と小売店を動かしたクレシア流「選ばれるサステナブルマーケティング」

「選ばれる仕組み」の裏側には、どのようなアプローチがあったのでしょうか。生活者と小売店の心を動かした、4つの実践ポイントを見ていきましょう。

日本製紙クレシア株式会社 常務取締役 マーケティング総合企画本部 本部長 髙津尚子氏がステージ上でクレシア流「選ばれる仕組み」について話す様子
日本製紙クレシア株式会社 常務取締役 マーケティング総合企画本部 本部長 髙津尚子氏

ECでのテスト販売とデータ分析で、リアルな購買理由をキャッチ

「スコッティフラワーパック3倍長持ち4ロール(ダブル)」の場合、サステナブル商品の実店舗展開に先立ち、ECでテスト販売を実施し、そのデータを多角的に分析しました。発売当時はダブルのみの展開だったため、トイレットロールはシングル・ダブルの2アイテムを売り場で並べるのが一般的という小売の売り場習慣の中では、導入判断のハードルが高いという課題がありました。(なお、現在はシングル・ダブルの両方を展開しています。)

そこでこの課題と向き合うためのマーケティング戦略として、ECでのテスト販売を選択しました。モニター調査などのマーケティング手法もありますが、これで得られるのはあくまでも依頼を受けて使った人のデータです。
一方ECでは自らの意志で購入した人のデータとレビューの分析ができることで、よりリアルな購買行動や購買理由が可視化できます。こうした分析を通じて十分な売上が見込めることを確認できたため、小売業の方にも安心して取扱いを決断いただくことができました。

情緒価値の共創:生活者が「賢い選択をした」と感じるブランド設計

サステナブルな商品であっても、生活者が選ぶ理由は「楽だから、便利だから」であって良いはず。購入後に「実は環境に良いものだった」と知ることができれば、自身の選択を肯定する要素は増え、商品への良い感情にも繋がりやすくなります。“いいな”と思って選んだものが結果的に“サステナブル”という自然な流れを大事にするため、「サステナブルです」の訴求に終始しないことは大切なポイントなのです。生活者自身が自ら選択したと実感できれば、サステナブル意識も内面化されやすく、より深く浸透していくはずです。

小売店にとっての「扱う価値」と「四方よし」の実現

どんな企業にも、持続可能性への配慮が求められる時代。中でも生活者向けの品を扱う卸・小売業者は、環境配慮型企業としての取り組みに積極的です。サステナブル商品を扱うこと自体が一つの価値になると伝えることで、自社商品とその意義を共に広めていく連携体制を築くことができます。
クレシアの場合、省スペース・大容量なスコッティは副資材の削減や、配送回数低減によるCO₂排出量の削減、リサイクル率の高さなどの環境メリットに加え、保管スペースの縮小や売り場での品出し作業者の負担軽減といった店舗運営面でのメリットも備えています。生活者・流通・メーカー・地球すべてにとってのメリットが詰まった「四方よし」を叶えていることで、良い循環を作ることができています。

グループと生活者を繋ぐ接点:紙はサステナブルを浸透させるミッション

実はクレシアは、日本製紙グループ内で唯一BtoCビジネスを展開する企業。だからこそ、リサイクルのしやすい「紙」製品のメーカーとして、サステナブルな取り組みとその意義を生活者に広めていくことが使命だと考えています。
具体的には、日本製紙グループは、以下のような3つの循環を作っています。

  • 未来に向けた継続的な植林を行う
  • 木質資源を余すところなく利用する
  • リサイクル原料を積極的に活用する

こうしたサステナブルな取り組みを、クレシアでは商品やメディアなどの生活者との接点で明確に伝え、実態を伴ったサステナブルアクションであることへの理解と賛同を広げながら、取り組みを推進しています。

サステナブルマーケティングで成果を出すためのポイント

ここまでご紹介した2社の事例から、これからのサステナブルマーケティングで取り入れるべきヒントが見えてきました。「地球や社会に良いこと」を伝えるだけでは、日々の買い物で選んでもらうのは簡単ではありません。生活者に無理をさせず、企業としても確かな成果を上げていくために、大切にしたい5つのポイントを整理しました。

生活者の「不便・不満」から逆算したプロダクト開発

社会課題の解消だけを起点に商品を作ると、プロダクトの商品価値は「サステナブル」に偏ります。開発においては社会の課題だけでなく、生活者自身が持っている課題(ちょっとした不便さや不満)も解消できるか?という視点が欠かせません。オイシックスを例に挙げると、必要な食材が必要な量だけセットになったミールキットは、食材がほんの少し残って使い道に困るという家庭の困りごとを解消しながら、フードロスの削減も実現しています。

サステナビリティを「目的」から「付加価値」へ転換する

訴求の面でも同じことが言えます。社会課題の解消に寄与するサステナブル商品は、その課題がもたらす影響や商品で何に貢献できるのか?を訴求したくなりますが、人は危機感や義務感だけで継続的に動くことは難しいものです。「環境・社会に良いもの」として目的を持って選んでもらうこと以上に「環境・社会“にも”良い」という付加価値として感じてもらう訴求が、商品やブランドへの信頼や愛着に繋がります。

経済合理性を担保する1.3倍以下の価格設計

日用品や食料品など購入頻度の高い商品は特に、通常品との価格差に生活者が「納得感」を持てるかどうかがポイント。どんなにサステナビリティに配慮されたものであっても、選んでもらえなければ継続的に提供することができず、本来の意義も果たせなくなってしまいます。繰り返し手に取ってもらえる価格を実現するための商品設計や、製造工程の工夫も重要でしょう。

電通が提言する「賛同者」を指標にした共感設計

電通では「これまでの“売り手と買い手”“企業とフォロワー”という関係性を進化させ、企業やブランドの志(パーパス)に共感して共に動いてくれる“賛同者”を作る必要がある」とし、『協働型マーケティング』を提言しています。これまでのマーケティングでは、効率的な認知拡大や短期的な売上貢献の視点が重視されてきましたが、より中長期的な収益への貢献や企業価値の向上という視点でのマーケティングが不可欠になりつつあります。

株式会社電通 サステナビリティコンサルティング室 エグゼクティブ・プラニング・ディレクター 竹嶋理恵氏がステージ上で「賛同者」を指標にした共感設計について話す様子
株式会社電通 サステナビリティコンサルティング室 エグゼクティブ・プラニング・ディレクター 竹嶋理恵氏

ストーリーテリングによる「社会的意義」の自分ゴト化

『協働型マーケティング』のためのコミュニケーションとしては、ストーリーテリングの力の大きさも見逃せません。

パタゴニアの事例に学ぶ「約束とお願い」のコミュニケーション

例えばアウトドア用衣料品メーカーのパタゴニアでは「私たちと一緒に環境フットプリントを削減しましょう」として、賛同者への約束とお願いを掲げています。「私たちは長持ちする有益な製品を製造し、お客様は必要のないものは購入しません」などの宣誓メッセージを掲げ、企業と生活者が一緒に行動するためのコミュニケーションを行っています。

クレシア「Action for Smile(回収キャンペーン)」を通じた、一方通行ではない関係構築

クレシアでも、賛同者との協働のプロジェクトを行っています。毎年行っている「Action for Smileキャンペーン」は、生活者にティシューの空箱やトイレットロールの芯を送ってもらうことでリサイクルを強化する取り組みです。サステナブル賞品が抽選でもらえる応募型キャンペーンにし、回収した紙資源の数やリサイクル過程も報告することで、参加することの楽しさと貢献度を感じてもらえる工夫をしています。

サステナブルを「売る」のではなく「効かせる」マーケティングへ

日本の生活者も、環境課題を中心にサステナブル意識は高まる傾向にあります。それでもサステナブルな消費行動に繋がらない背景には、情報不足・価格・手間やアクセシビリティというマーケティング課題も見えてきました。

企業には、生活者が納得できる価格で、多くの人が手に取れるよう接点を増やしつつ、どんな商品がサステナブルなのかわかるような商品開発・マーケティングが求められますが、サステナブル自体が生活者にとっての商品価値とはなりにくい点には注意が必要です。 生活者が自身のメリットを十分に感じられる商品であることをベースに、サステナブルを付加価値に転換しながら、継続的に賛同者と協働できるストーリー作りとコミュニケーション設計をしていくことが、今後の企業に求められるマーケティングと言えそうです。

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